2006.02.21

トリノとは現在進行中の冬季オリンピックの事であり、ホリエモンとはライブドアの堀江前社長である。トリノは現在進行中であり、ホリエモンは既に賞味期限の過ぎた過去の人となっている。ただ、ホリエモンが過去の人となったのは、未だわずかにちょうど5週間前、1月16日の事である。大本営発表は六十数年前のことである。この3つに共通するのは情報の信頼性の問題である。何れも情報が信用ならない点である。情報は正確さが命である。


日本のこの健忘症の時代に、大本営発表と言っても既にその意味を知らない世代も多いと思われるが、太平洋戦争中の軍部の戦果発表を一般には言う。実にインチキな戦果発表の代名詞である。ちなみに大本営とは「戦時または事変において設置された天皇に直属する最高の統帥部。1893年に制定、第二次大戦後廃止」と広辞苑には記されている。

トリノ、ホリエモン、大本営発表を三つ並べて見ると、マスメディアを通じて流される情報に踊った社会の愚かさが実に鮮明に見えてくる。マスメディアの雄弁さと、変わり身の早さも映し出されて来るので面白い。

この3つを時間の推移で見ると更に面白く、我々に教訓と知恵を与えてくれそうである。時間の推移と、情報の変質がパノラマのように見えるからである。この教訓を学ぶことは企業経営、国家運営にも必要である。

先ずはトリノである。時系列で見るとトリノ、すなわちトリノオリンピックは、皆さんが知っての通り現地時間2月10日夜、日本時間2月11日早朝に始まり、今現在2月21日でちょうど10日間経過したところである。マスメディアの事前報道とこの10日間の実際の結果は、残念なことに実に面白い。日本選手に対する事前の過大評価と実際の実力、現実とのギャップ。高い放送権料を回収し、広告収入を増大させるためにマスメディアは高い視聴率を必要とし、そのために国民の期待感を高めて来たいつものやり方ではないか。

次にホリエモンである。一昨年の近鉄、阪急合併問題から始まったライブドア堀江社長のマスコミ報道の推移とその内容の突然の変化もそれに劣らず面白い。2006年1月15日迄の報道とその後の報道内容の急変。目の前で起こった報道変化である。現在も進行中であるが、こういった報道が五週間も続くと、1月16日以前の報道を思い起こすことすら既に私達には難しく感じられる。ただ、検察が公開調査、捜査を開始し、検察筋からのみ情報が流されている状況で、全て有罪との前提に立つ報道には疑問が残る。マスコミが自らの約1年半続けたホリエモン報道に対する反省と贖罪によるが如く、1月16日以降全て有罪との前提に立った議論、報道がなされているのは何となく薄ら寒い思いにかられる。実にマスコミとは賢い組織と言えるかも知れない。自らの識見を持たず、結果を後知恵で、“識見と正義”を振りかざし最もらしく語る勇気にマスコミは満ちあふれているのかも知れない。

さて、既に歴史となって久しい大本営発表である。太平洋戦争中、国民は情報から遮断された中で偽装情報を与えられたという虚しさ、怒りがあった。この偽装情報を国民はその発表の公式名称を取って「大本営発表」と名付けたのである。ちなみに大本営発表の多くの嘘は戦後の国民的評価とは違い、多くが海軍によるものであった。しかし、本当の日本国民の不幸は大本営発表にあったのではない。太平洋戦前の日本の新聞マスコミの報道姿勢と戦後の報道姿勢の急変によって増幅されたのである。国家の命運を掛けた戦争は、今回のトリノの各種競技以上に勝ち負けがハッキリしている。銀メダルも無ければ、銅メダルも無い。ましてや入賞などは無い。戦前、戦後の日本の新聞マスコミ報道の急変、過激な好戦論から反戦論への急変はトリノ、ホリエモン報道の変遷とは比較にならないものがあった。

この3つの事例から学ぶことが出来るのは、「客観的な情報分析と判断力の養成」が以下に大事かである。マスコミの責任に触れて来たが、多くの優秀なマスコミ関係者がいるにも関わらず、なぜこういった報道、過ちが続くのかである。事がオリンピック程度なら実害は知れているが、憂うべき事態である。正しい、適切な判断、報道を行う事の出来る人々が、高い視聴率、販売部数増加の必要性から退けられているのかも知れない。あるいは、そもそもそういった能力のある人材が数少ないのかも知れない。何れにしても結果として、誤った報道がなされ国民に幻想を与え、それを糊塗するために新たな辻褄を合わせる報道がなされるとするならば、マスコミは社会的役割を放棄し、国民の信頼を失うだけでなく、存在そのもを否定する事になる。

それを許す大衆は自らの耳目を塞ぐ事になる。振り返って見るに、現在進行中のトリノは2月21日迄の日本選手の結果は彼等の実力と勝利の確率から見てほぼ実力通りであり、「実力無き者には勝利は訪れる事がない」という教訓を学んだに過ぎない。その意味では今晩のフィギュアスケートは実力通りの結果で日本国民の期待に応えると思う。(宇田司郎筆)日本時間2006年2月21日22時発信



PHOTO

RSS2.0

login

a-blog cms