2007.09.22

SIA評論:サブプライム問題:経済的リスクと社会の許容できるリスクとリスク回避のコスト

9月20日の日経一面の「日米欧、金融政策に試練(膨張マネーにジレンマ)」の記事の中では「サブプライムローンの残高は1兆3千億ドル、日本円換算で150兆円」となっています。ただしこの数字の根拠、情報源も示されていませんので私にはその正確さは解りませんが、これを正しいとして


以下説明します。この全てが問題債権では当然ありません。因みに日本の東京証券取引所一部全銘柄全体の時価総額は9月19日東証引け値で、509兆円です。日経平均は16,381円です。サブプライムローンが全てモーゲッジローンであれば全て担保がついていますので、仮に全額回収不能となったとしても、担保の不動産価格が少々下がったとしても損失はその何分の一、数十分の一かも知れません。

更に、このサブプライムローン債権が最終的に全額未だに米国で保有されていたとしてもこの金額自体は、米国の経済規模を考えるとたいした問題では無い可能性が大いにあります。ましてや、この問題が欧州諸国に飛び火していること自体が証明しているように、その相当部分が欧州諸国の金融機関の所有となっていれば、更に米国の金融機関が抱えている負担は少ないはずです。

元々、倒産リスクも加味し高い金利を取っていますので、ある程度その備えもあったはずです。又、大方の金融機関は、本来は分散投資を行うことで、リスクを回避しますので、各金融機関にとってのリスクは限定的なはずです。

この分散投資を、1億円のモーゲッジローンを例に説明します。各銀行は1億円の損害(焦げ付き)を受けると倒産するとします。1億円のモーゲッジローンを一行が全額引き受ければ、最大限1億円のリスクがあります。このため各銀行が分散投資を心掛けモーゲッジローンは一件当たり上限融資(貸付)額を1千万円としていれば、10行が各行10分の一ずつ、すなわち1千万円ずつ分担した融資となります。この場合、一行当たりのリスクは最大限1千万円です。この1億円のモーゲッジローンで全額の損が発生した場合、単独で引き受けていればその銀行は倒産です。しかし、分散投資をしている場合は、10行全て健全で、いずれも倒産しません。結果的に各10行とも、それぞれ別々の1件1億円の10のモーゲッジローンを引き受けている場合があります。この場合も単独で1件をまるまる引き受けるよりも、十分の1ずつ10件、引き受ける方が倒産のリスクは少なくなります。なぜならば1件が焦げ付く可能性はそれなりにありますが、10件全て焦げ付く可能性は大変少ないからです。(更にモーゲッジローンへの最大融資額を5千万円に限定し、他の分野への融資へ分散していれば安全度は更に高くなります。このため優秀な金融機関は投資先の業種や地域、金融商品を分散します。この段階での分散の方法はそれぞれの投資対象分類相互間のリスクの相関度合いも重要な検討課題ですが、ここでの説明では省略します。)

しかし、今回のサブプライム問題の大騒ぎを見ると、次に述べるような潜在的問題を抱えており「サブプライムローンの残高は1兆3千億ドル」という数字上の状況よりも、事態は一層深刻な可能性があります。以下、理論上あり得る可能性は様々ですが、最も可能性が高いと私が思う3点を取り上げます。

1.連鎖倒産の可能性:多数の金融機関が絡んでいるが分散投資とはなっていない場合

上記分散投資で説明した10行がお互いのリスクを分散せずに、10行の銀行取引が直列に繋がっていて(この場合を070914-SIA評論は指摘)、各銀行が1億円のモーゲッジローンリスクを実質的に全額引き受けている場合です。10行が関与していますが、10行目の銀行は1億円のモーゲッジローンを全額融資しており、その1億円を9行目の銀行から借入ており、9行目の銀行に1億円の支払い義務があり、9行目は8行目に、8行目は7行目にとなっている場合です。モーゲッジローン債権の金融機関同士の売買、金利スワップ、モーゲッジローンの債券化の過程、さらにはその証券の売買、保証方式によりこういう事態は考えられます。この場合1億円のモーゲッジローンが全額取立不能となれば10行目は倒産します。10行目の銀行から1億円が入ってきませんので9行目も倒産です。最終的に10行全て倒産という事態が発生する可能性があります。この場合の倒産は、各金融機関の損益での大幅赤字によってのみ発生するのではなく、資金の流れが途絶える結果、不履行(債務支払い不能)を発生させ連鎖倒産が起こる可能性が生まれます。この場合、この10行が業務として抱えている他の支払いにも支障を起こしますので、社会的な信用不安、取り付け騒ぎが起こる可能性が理論上あり得ます。

2.土地バブルの問題

サブプライム問題の本質は、焦げ付きもさることながら、土地価格が異常に高騰しすぎて、土地がバブル化した高い価格で売買がされ、その不当に高い評価額で担保となっている可能性がある事です。土地価格が急激に下がりますから、お金を持っている人も、ローンを支払わず、担保の土地を納める事が発生し、銀行はこの土地を販売する事が出来ず、資金不足を起こします。土地の高騰が続いている間は、土地所有者は支払う金が無くても新しい買い手を見つけて、その販売額を支払いに当て、差額をポケットに入れます。しかし、借入額よりも担保物件の家の方が安ければ、わざわざ高額の借入金を返済し、安くなった家を所有し続けて損をかぶるような事はしません。お金を持っていても支払いをせず、土地を納めます。(日本でも1990年代は物納が多くありました。)

3.サブプライムは氷山の一角

上記1,2の危険性はそれ自体大きいのですが、本当に怖いのは金融機関や投資家が、こういったサブプライムローンを行っていた背景、又サブプライムローンを債券化した債券を購入していた背景です。よい貸出先、投資先が無くなり、そういった貸出や債券投資に走らざるを得なかった可能性があります。この場合事態は深刻です。銀行の貸出物件、金融機関の投資債券が多かれ少なかれ、サブプライムモーゲッジローンと同等、あるいはそれ以上に危険性を秘めた貸出物件、投資債券を持っている可能性があります。この場合は、現在騒がれているサブプライム問題が切っ掛けとなり徐々に、あるいは一斉に表面化します。

現時点では、本当のところは解りません。しかし、1−3共に、可能性はあります。2と3はある意味で1980年代に始まり1990年代に日本の金融機関が抱えていた問題でした。今回の米国のサブプライムの問題でも2と3は必ずあると思われます。1と類似した効果を持ったのが金融機関の裏保証であり、株式持ち合いでした。日本の銀行は取引先の株式を持ち、含み益を誇っていましたが、取引先の経営不振により融資(貸金)は返らず、その取引先の株価の大暴落、自社の株式価格の大暴落と続いて、やがて銀行自体の信用失墜を生み出し、その後の動きは皆さんがご存知の通りです。

しかし一点、1980年代の日本と現在の米国との大きな違いがありますので、それを指摘し終わりとします。日本の金融機関がつまずいた一因は、ダイエーや大手不動産会社を初めとする大手法人への貸出が焦げ付いたからです。主力銀行争いを行った大手企業で損失を被り、又資産家向けへの相続税対策を売り物にした土地を担保とした大型プロジェクト融資で自らの首を絞めました。一方で多くの一般庶民、サラリーマンへの住宅ローンは、1990年代もほとんど焦げ付きは起こらず、銀行にとって最も良質の融資、収益を支える収益源となったのです。日本の金融機関が歴史的に無視をして来た個人への融資、貸出が、国策でもあった住宅ローンといった形で1980年代、1990年代から現在に至るまで銀行に貢献してきたのは実に皮肉な現象です。日本経済、日本社会全体の効率的な運営に資するよりも、金融機関同士のメンツや争い、税制を悪用した税金逃れに走った大型融資プロジェクトが多くの金融機関の存続を脅かし、長年に渡り日本の金融機関が無視して来た一般庶民へのささやかな住宅ローンが、銀行を結果的に救済する一因となったとすれば、実に勧善懲悪のドラマを見るような物語であったのかも知れません。(佐々木 賢治)



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