2008.05.06

080506SIA評論:オバマ、クリントンの米国大統領予備選挙とガソリン税
2008年5月6日午後10時50分配信

今回の民主党大統領選挙予備選、ノースカロライナ、インディアナ両州の選挙は共に接戦が伝えられているが、私は長年の米国政治を見て来た私なりの経験から決着がついたと見ている。オバマ氏の勝利である。

実際の所は、現地5月5日現在の各種米国世論調査機関の予想でも未だに接戦であり、インディアナ州はクリントン上院議員が若干優勢、ノースカロライナはオバマ氏有利との見方が多数である。それにもかかわらず、5月6日の予備選挙はオバマ氏の民主党予備選挙勝利を確定する一歩となると確信するのは、ガソリン税についての各候補の主張とそれを巡る有権者、経済学者の発言、マスメディア報道からの判断である。

共和党のマケイン候補、ヒラリー・クリントン候補は何れも、一時的なガソリン税の引き下げを提唱している。それに対して、そういった有権者に迎合するような一時的な施策では国民のためにならないと論陣を張っているのがオバマ候補である。各候補の個々の議論、マスメディアとの質疑における発言演説は枝葉末節となるので、ここでは引用する必要もなければ、意味もないので割愛する。

ガソリン税の問題は日米の有権者の意識と経済的な知識を判断する良い試金石ともなり、日本の政治、有権者、経済学者、マスメディアを考察する上でも大変示唆に富むので、現在一文を纏めている次第である。

現在の原油高の一番の原因は需給関係である。マイクロ経済学を学んでいれば基礎とも言える原油需要の増大による価格の高騰に、米国ドル安が加わり、ついにスポット価格が120ドルを超える原油高を招来したのである。この問題を経済的に見る場合(経済学的見地、及び実質的な国民利益を考慮する場合)問題点は2つである。一つは既に述べた需給関係による価格決定メカニズムであり、二つ目は原油輸出国と輸入国との間の原油価格の取り分である。原油輸出国と輸入国間の原油価格の取り分と聞くと、戸惑われる方も一部にいると思う。しかし分かり易く言えば輸入課徴金は輸入国の取り分であるので、ご理解戴けると思う。

生産量は、基本的にOPECを初めとする原油輸出国の政策で規制されている現状では、価格政策によって需要を減らす以外には原油価格を下げる手段は無い。大方の原油大量輸入国は、民主主義政治を遵奉し、自由主義経済体制を採っている。方や、多くの原油輸出国は、王政や社会主義的な全体主義的経済制度による国家的な統制の下で原油生産が行われている。しかも原油輸出国に潤沢な資金が流れ込んでいるので、現在原油増産は期待できない。このため原油価格を引き下げるには需要を引き下げるしか手段が無い。最終的な消費者段階での価格上昇を通じてしか、需要減少といった経済メカニズムは働かず、このメカニズムを通じてしか原油価格の低下は図り得ない事は、単純明快な事実である。しかも、世界貿易促進を図るWTOを初めとする様々な世界的な取り決めや、2国間協定があるため輸入課徴金制度は不可能であり、有効性に欠ける。しかし、国内政策において、国内産、海外産を問わず課す事の出来るガソリン税は、各国の自由裁量である。この自由裁量権を使い最終的な国内の消費価格を高くし、よって需要を削減し、原油価格削減を実現する事は、産油国からの輸入国への原油価格収入の移転であり、世界の原油輸入国が一致して取るべき政策であり、この引き上げたガソリン税によって生まれた税金を如何に有効に国民の福祉のために使うかが政治の果たすべき役割である。

こういったガソリン税引き上げ策は、同時に連日日本のマスコミを熱狂させている環境対策、二酸化炭素削減にも繋がり、一石二鳥、三鳥の政策である。日本国内において4月に起こったガソリン税の問題は未だ記憶に新しいが、この時、こういった基本的な議論が行われたとは思えない。いろいろなマスメディアの報道も井戸端会議の域を出なかった。日本の民主党は有権者の人気取りに走り、一方自民党は道路族の利権確保に狂奔し、その正当化のため地方の財源、道路整備の必要性だけを叫んでいた感が拭えない。

さてアメリカである。ABC、PBSといったアメリカのメージャーなメディアは、そのニュース番組で経済学的な視点から見た実質的な効果を鋭く突き、マケイン氏やヒラリー・クリントン氏に問い質している。勿論、オバマ氏は、一時的なガソリン税引き下げ政策をギミック(だまし)として、厳しく追求している。多くの経済学者も積極的にこの問題については発言し、ヒラリー・クリントン氏の政策を支持する経済学者は皆無と言える。ニューヨークタイムズを初めとする米国の新聞も、これまで有力なヒラリー・クリント氏のブレーンであった、経済学者のヒラリー氏への失望と批判の記事を掲載している。

今回のガソリン税を巡る一連の騒動により、オバマ氏は米国のメインストリーム(伝統的な主流派)の評価を受け、ヒラリー氏はそれを失ったと私は判断している。5月6日の選挙が一勝一敗に終わっても、この流れは崩れず、ヒラリー氏は経験を誇って来たが、その経験とは大統領夫人としての縁故による経験に過ぎなかった事を改めて印象づける事になったと私は判断している。(文責 佐々木 賢治)



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