2014.04.16

140410-SIA評論:Nature誌小保方論文の行方
4月9日記者会見、その一


4月9日午後1時から行なわれた小保方氏の記者会見。最初の部分はNHKの12時からのラジオニュースで聞き、その後はインターネット上の「ニコニコ生放送:http://live.nicovideo.jp/watch/lv175328217?ref=zero_nicotop」で見た。3時半過ぎまで記者会見は続いた。NHKラジオのニュースで記者会見場からの直接報道に切り替わったのが12時代であったので、実質的に3時間近くの質疑があったことになる。何時に始まり何時に終了したか正確な記録を取っている人は是非お知らせ願いたい。

今回多くのテレビ局が実況中継した様であるので、編集されたニュースでない生の記者会見を部分的にも見た人は膨大な数に上るであろう。視聴者数は千万人台に達していたかも知れない。

このため、記者会見の内容そのものよりも記者会見そのものについて先ず言及したい。私が注目したのは、具体的にいえば記者会見場での記者の質問そのものである。

4月9日小保方氏記者会見場での記者の質問
私が大変良い質問をしたと着目したのは二人。14時51分のNHK記者と14時49分の朝日新聞記者。NHK記者の質問は論文の映像、実験の技術的な質問であったと思う。朝日新聞記者は「スタップ細胞ではなく他の物が混入したのではないか」との質問である。

NHKラジオからの切り替え時、又ニコニコ生放送の受信一時中断時間に他に大変良い質問があったかも知れない。この点は事前にお断りして置く。上記2記者の質問も今回のスタップ細胞を巡る騒ぎの本質的争点、問題点を考慮すれば必ず確認しなければならない質問で有る。先ず、この両記者、及び両組織に敬意を表したい。マスメディアとしての最低限の確認を公の場で行ったという点で、評価できる。

一見素晴らしい質問に聞こえたかも知れないが、15時30分のテレビ朝日記者の質問はいただけない。出だしが芸能担当記者のような質問。引続く質問はこれまでの理研側の発表と小保方氏側の主張のすり合わせ確認と思われる内容であった。テレビレポート的であり、それまでの質疑を考慮すると場違いな質問と写った。

小保方氏の発言で印象に残る物が幾つかあった。「スタップ細胞はあります。」、「200回ほど作成した」、「論文は撤回しません」の発言である。こういった発言を受けて、出席した記者たちから、こういった発言に対する適切な付随質問が無かったのが実に残念である。

「二百回作成成功」となると、膨大な実験を行なって来たはずである。当然最初は、既報の通り偶然の産物である。その偶然の産物に着目し、いろいろな条件の下で再現実験を行いその再現に成功するまでには相当の月日と努力を要するのが、ペニシリンの発見を始め一般的である。様々な仮説を立て、試行錯誤、実験を繰り返し二百回成功する過程で、その成功率も高まり成功に導く条件、技法についても相当進歩、確立されたはずである。「スタップ細胞はあります。」、「200回ほど作成した」といった発言は記者会見の終了間際に飛び出した発言ではない。記者会見開始後、比較的早い時期に出て来た発言である。

「最初にスタップ細胞に気付き、二回目の成功したのが何時か?」、「その後各種条件を変え試行錯誤したと思うが、いつ頃から安定的にスタップ細胞を作れるようになったか?」、「直近の成功率はどうか?」といった質問は、私の記憶している限り記者団から出なかった。なぜか?

理由は簡単である。そういった質問をする能力が無かったからである。そういった記者が、会見場にいて挙手し質問を求めた可能性は否定できないが、少なくとも実際の質問者はいなかった。視聴者は気付いていないかもしれないが、「こういった質問が出なかった事実」を「ニコニコ生放送」の視聴者は今回目撃する事になった。この事実、経験が実は重要である。更に引き続き分析を進めるが、次号とする。
(140410-SIA評論 小保方氏4月9日の記者会見分析、その一 佐々木 賢治)

140402-SIA評論公開版:Nature誌小保方論文の行方

2014年4月2日
スタップ細胞を巡るこの2ヶ月の大騒ぎ。いろいろと考えさせる問題を含んでいる。いつものことであるが、当初のマスコミの大騒ぎと一転した批判。

私共SIAは大学、研究機関関係者の海外学術誌に掲載を目指す論文の英訳を既に20年間担当して来ている。このため一般の方々やマスコミ関係者よりも身近な問題として今回の問題を考えている。

私共の翻訳方針として日本語からの翻訳依頼の場合は日本文に忠実に解り易くキレの良い正確な英語に仕上げる様各担当者(原文翻訳者、ネイティブエディター、最終確認者)に指示し心掛けさせている。又、英文校正依頼の場合はネイティブ校正者が理解できる英語しか受付けず、英語として解り易く明快な英語に修正させるに留めさせている。論文投稿規程に従ったフォーマットの変更も有料で対応しているが、善意による物であれ辻褄を合わせるための論旨の変更は禁止させている。裏を返せば悪文は翻訳後も悪文となる。論文とは著者が書くべきものであるあるので当然の対応であり、プロフェッショナルな翻訳業者として守るべき職業倫理である。さて今回の論文に戻る。

時代を画するような斬新な論文とは本来、専門外の人間が読んでもその論理性が理解できる物で無ければならないと私は実感している。そもそも旧来の固定観念を破る独創的理論、論文は旧来からの固定観念のゆえに専門家には理解不可能な事が多い。逆に、論理的思考力さえあれば固定観念の無い専門外の人(素人)の方が理解し易い事が多いものである。

もっと解り易くいえば、独創的論文を発表し世に認めさせるためには、論理的思考力と忍耐心を兼ね備えた門外漢に理解出来る様に解り易く説得力のある資料と文章を準備する必要がある。

今回のSTAP (Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency) 論文騒動は議論の中心が、いつしかこの生命現象(刺激による細胞の初期化)の存在の有無よりも、別次元に移ってしまっている点が実に気になる。この論文の個々の問題点については、旧来の識者が指摘する様に不可思議な点は多々ある。しかし、私には将来の科学の進歩、生命観から見る時、それ以上の重要性をこの論文は提示し、示唆していると思う。

実は私共は既にこの論文を入手しSIA関係者にも読むよう勧めている。それだけに、多くの落ち度が小保方氏にある事は認めるとしても、これまでの生物学の常識を打ち破る荒唐無稽な話を捏造したとは、現時点で今一つ信じ難い。この現象の重要性を考えると、先ずはこの現象、そのものの解明、存在の有無、更にはそのメカニズムにもっと議論と努力が傾注されるべきであると思う。

マスメディアは週刊文春を初め面白おかしく痴話話の様に取り上げ批判している。朝日新聞、地元中日新聞を初めとする新聞やテレビメディアも似たり寄ったりである。それで紙面を埋め、販売部数を伸ばし、視聴率を上げるだけでは日本のマスコミも余りに情けない。そういった程度の報道を鵜呑みにする読者、視聴者は自業自得かも知れないが、そういった社会は悲惨である。

今回の騒ぎを大きくしている原因の一つは「多数の人を雇用しているマスメディアに各分野の専門家が余りに少ない事」にあるのは間違いない。この問題に限らず、マスコミ、マスコミ人は「所詮、初期化された未分化の集団に過ぎず、専門知識が不足するがゆえに時々の風潮に飛び付き風評被害を拡大している存在に過ぎない」としたら悲しい話である。今回の問題はやがて時間と科学の進歩がその是非を証明する事になるので、一時的な高が知れた問題であるかもしれない。しかし、戦前の報道姿勢と一変した戦後の報道、日本国や社会の名誉が絡む問題のこれまでの各種誤報の賠償は一体誰が行なうのか、甚だ心許ない話である。
http://live.nicovideo.jp/watch/lv175328217?ref=zero_nicotop
(140402-SIA評論 佐々木 賢治)



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