2008.10.01

080930SIA評論:米国金融危機、健全な米国国民意識:9月29日米国下院の金融安定化法案否決

(2007年7月以来、SIA会員に再三米国金融危機の深刻さについて論評して参りましたが、9月30日発信の情報を公開します。)

米下院が9月29日最大7000億ドル(約75兆円)の金融安定化法案を否決した。法案の議決を見ると反対228票、賛成205票、意外な大差と見る向きもある。この結果、昨日9月29日の米国のニューヨーク証券取引所は大幅な下落となり(-777.68)、本日の東京証券取引所、アジアの各市場も下げた。

しかし、否決に至った背景には、ある意味で米国民主主義の強さ、又米国銀行制度の成熟、健全な自己責任主義の米国の国民意識がある。

なぜ、下院が否決したか、その理由、背景を理解する事無しに上記結論を理解戴く事は不可能であるので、以下私の分析を述べる。11月4日の大統領選挙投票日は、下院の選挙日でもある。米国の選挙制度では西暦年の4の整数倍の年の11月1日を除く第一火曜日が大統領選挙投票日であり、上院は1/3の選挙区で選挙が行われ、下院は全選挙区で選挙が実施される。下院の任期は2年であるため、2年後中間選挙で又全員が選挙の洗礼を受ける事になる。選挙日まで残す所5週間。各下院議員は選挙民の意識に極めて敏感である。

多くの米国民が、現在の米国金融機関への救済策に不信感を持っている証である。この民意に敏感な議員意識が共和党、民主党の指導部が合意に漕ぎ着けた法案に反旗を翻したのである。ではなぜ、民意はこの救済法案に不信感を抱いているかである。

簡潔明瞭にいえば、「金融取引という博打場で相場を張り、いい目が出て勝てばその利益を我が物とし、悪い目が出て負ければ膨大な政府資金投入による救済」という、イカサマ的なマネーゲームに不信感を強めて来たからである。1997年のLTCM(Long-Term Capital Management)社の救済劇、2008年3月のBear Sterns救済劇にアメリカの一般市民が反旗を翻したのである。こういった、正しい経済意識を前に、リーマンブラザーズを救済する事は米国政府、金融当局には不可能であったのである。その後の幾つかの貯蓄銀行の倒産の危機を前に米国の国民意識の変化を期待し、米国政府や通貨当局は金融制度の持つ重要性を強調する事により、世論を動かし解決を図ろうとして来たが9月29日には敗北したのである。一部の経済学者や金融の専門家が常々警告し危惧して来た様に、安易な救済策、金利政策がこれまで一本調子のニューヨーク株式市場株の株価上昇と不動産価格の上昇を招き、更に今回安易な救済を実行すると問題を先延ばしにするだけで、将来に一層の禍根を残すとの危惧を経験的に庶民が共有したのである。

米国においては、銀行も民間企業として、競争の嵐にさらされるのは当然といった賢明な経済的知識が浸透している。非効率な経営を行う金融機関は倒産し、市場から退場すべきとの認識が、日本に比べ強い。これは米国の健全さを示している。又制度として米国では非効率な銀行を救済するのではなく、銀行預金者を、銀行の倒産から生じる被害から救済する事に重点が置かれ、そのための預金保険制度もFDIC(Federal Deposit Insurance Corporation; FDIC:連邦預金保険公社)として1933年設立以来整備、運用されて来ている。実際に、米国の貯蓄金融機関等でFDICの保険が保障する上限金額(100,000米国ドル)をテレビコマーシャル等でもハッキリと謳う程徹底している。(このFDICについて更に知りたい方は次のホームページをご覧になると良い。http://www.fdic.gov/)

「金融機関、金融システムへの信用の維持が人体に喩えれば、血液の循環システムの様に、米国経済の健全性維持、世界経済の維持に必要不可欠である。このため、規模の大きな金融機関は救済すべきという議論は、冷静に考えれば、自由主義経済の下、代替する金融機関が十二分に育ち、又預金者の保護が十分に図られている社会、経済制度にあっては実にマヤカシに過ぎない。」と、多くの米国人は見ている事を9月14日以来の米国の2週間の動きは伝えている。(080930SIA評論:文責佐々木 賢治)

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