2008.10.03

081002SIA評論-補足と回答(080930SIA評論:米国金融危機、健全な米国国民意識)
10月3日の下院審議の展望:9月30日以来の動きと予測

一昨日9月30日の記事はいろいろな反響を生み、多くの質問とコメントを戴いた。質問のほとんどは、SIA評論の定期購読者ではなく、昨年2008年7月以来のSIA評論で私達が指摘してきた「米国金融危機の深刻さ」についての記事を読まれていない方ばかりであった。このため、昨年来の主旨を簡単に要約し、以下意見を述べたい。(このため、この評論も080930SIA評論同様、一般公開として定期有料購読者以外にも送付し、公開しました。)

SIA評論が2008年7月から指摘して来た内容を要約する。
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今回のサブプライム問題の本当の問題はサブプライム問題もさることながら、そういった物に手を出さざる得なかった、米国金融機関、又ヨーロッパの金融機関の実情である。

日本の1980年代日本の大手金融機関が、子会社としてモーゲッジ金融機関を設立し、不動産担保ローンを代替的に行い、又メインバンク争いの中で、不動産を担保として貸し込んでいった背景と同じである。多くの優良企業が十分な自己資金を手にしていたため、貸出先が無く、貸出競争に走らざるを得なかったからである。その際、過去の経験則に従い、逃げも隠れも、又隠す事も出来ない、しかもこれまで値上がりを続けた不動産担保に依存したのである。

実は米国の今回の構造は、値上がりを続ける不動産市場に銀行も、債券を発行する当事者も、又投資銀行も、良い格付けを保証する債務保証機関も、更にモーゲッジローンを借りた一般米国市民も全て依存し、値上がりが続き活況をていする証券市場をより所として、不動産価格の将来の更なる価格上昇を当て込んでいたのである。それを推進して来た一因は、LTCM破綻の際にも見られた低金利政策と政府による救済であった。

こういった事態が継続的に続くと、そこは人間の性、欲に溺れるものである。こういった後遺症は必ず起こり、それが表向きサブプライム問題として表面化した。日本として採るべき方策は、安易な救済に走り自ら怪我をする愚を避け、豊富な日本の資金を有効に役立て、今回の金融危機に際して日本は世界をリードする賢い投資家となる事である。この問題は根が深いが故に、決して安易な救済、国際協調に走ってはならない。米銀を初めとする投資ファンドが、1990年代示したように、冷静なビジネス判断を持って投資し、買収、合併、救済を行うべきである。日本が自ら考え、賢明な対処を行えば、金融界、産業界を問わず、チャンスが潜んでいる。
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以上が、昨年来のサブプライム問題に対するSIA評論の骨子である。その他、金融商品、金融界の構造的問題も論じたが割愛する。

さて、9月29日の下院の否決に対する私共の分析を冷静に読んで戴ければ、なぜ昨日、米国現地時間10月1日金融安定化法案が上院を通過したかも理解戴けると思う。以下、一昨日の該当箇所を引用するので、是非、再読願いたい。引用:(11月4日の大統領選挙投票日は、下院の選挙日でもある。米国の選挙制度では西暦年の4の整数倍の年の11月1日を除く第一火曜日が大統領選挙投票日であり、上院は1/3の選挙区で選挙が行われ、下院は全選挙区で選挙が実施される。下院の任期は2年であるため、2年後中間選挙で又全員が選挙の洗礼を受ける事になる。選挙日まで残す所5週間。各下院議員は選挙民の意識に極めて敏感である。)

さて、明日米国現地時間10月3日に再審議される下院の動きである。この間の動きを注視する必要がある。注目すべき出来事を列記する。

第一に080930SIA評論でも指摘したFDIC(Federal Deposit Insurance Corporation; FDIC:連邦預金保険公社)の保険が保障する貯金上限金額(100,000米国ドル)が、その後の修正で250,000ドルに引き上げられた事が一つ。第二に、米国の自動車業界ビッグ3が要請してきた米国自動車業界向け低利融資策法案にブッシュ大統領は9月30日署名した。金額は250億ドルと、7000億ドル(約75兆円)の金融安定化法案と比較すれば微々たるものかも知れないが、この動きは大きな政治的意味を持つ。

1990年代米国において産業界と金融界で米国の経済政策を巡る戦いが繰り広げられた。それに勝利したのが、当時のクリントン政権下の財務長官ルーベン氏である。ルーベン氏は米国の経済政策を金融立国へと展開しドル高を主導した人物である。ドル高政策の下、巨額の外国資本を取り込みウオール街は繁栄を謳歌して来た。方や米国自動車業界はじり貧を続け、今やGM、フォードといったかっての名門、米国を代表する企業も、その存続が疑われる事態となっている。

ここで米国政治の基本中の基本であるが、各議員は自らの選挙区の利益を守るためには、議員同士の取引をする事が一般化している。自動車産業の歴史的中心地ミシガン州の議員に7000億ドル(約75兆円)の金融安定化法案反対論者が多かったのは理の当然である。こういった議員が、自動車産業救済法案との取引で、賛成に回る事も、又十分予見できることである。この私の推定が正しいとするならば、米国自動車業界に対する米国政府の救済策は、今後更に進み大幅なものとなる可能性が高い。その後の米国経済の行く末は興味深い課題である。

(この先は、会員のみへの情報提供とします。会員以外の方で関心のある方は、会員申込をされるか、10月4日午後5時からの「第66回名古屋MBAフォーラム:金融危機と日本経済」に参加下さい。本日10月2日朝日朝刊社会面、10月3日の日経夕刊社会面、読売朝刊のSIAの広告をご覧下さい。)(081002SIA評論-補足と回答(080930SIA評論):文責佐々木 賢治)



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