2007.08.17

本日、日経平均株価が急落し、前日終値比874円81銭安の1万5273円68銭で取引を終えた。

今回の一連の動きを見ていると、ブラックマンデー(注1参照)を思い出すが、私の見解は「日本は市場の動きに任せ、愚かな介入を行うな!」である。以下まず、簡潔にこの点について述べる。


まず株式市場を離れて円高から筆を起こしたい。今回の円高は、ここ数ヶ月私がいろいろな形で述べて来た事、「日本の過度な円安は臨界点に来ており、急激な円高が発生する。」、が発生したにすぎない。多大な貿易収支の黒字、さらには20年、30年前と比べると大幅な改善を示している知的所有権(特許、ノウハウ)を含むサービス収支の大幅な改善により、日本の経常収支黒字は膨大な額に達しており、こういった経済のファンダメンタルを見ると、日本の円安は異常な事態であったし、異常な事態である。この歪(イビツ)な事態を支えてきた一因は超低金利である。

一度こういった事態、歪(イビツ)な事態に火がつけば、爆発が起こるだけである。火について述べたので、水についての喩えで余談の説明をする。最近のこれまでの円安は、水蒸気が過飽和な状態にある異常事態が長期にわたって続き、ちょっとした外的な刺激により、一斉に過飽和な状態にあった水蒸気が液化現象を起こしたのである。物理的現象は、物理的限界を超えては進まないので、問題は知れている。しかし、人間世界の現象は、経済といえども人々の思惑が絡むので異なってくる。

人間の営む経済現象は時として事態を一層深刻化する事がある。それは人が自らの利益を守ろうと狂奔するからである。狂奔し、政治力を使い、世論マスコミを使い自らの目先の利益を守る結果、事態を一層深刻な状態にしてしまうのである。しばらく続いた、異常に低い金利と円安で十分な甘い汁を吸い続けて来た企業、金融機関と個人投資家が、ここ数年一層円安をもたらす経済現象を下支えして来たのである。金融不安解消、銀行救済を意図した低金利政策と円安に、当然な経済行為である個々人の欲、企業の欲が結びついた結果である。経済に無知な政治家が企業収益、雇用問題に突き動かされ、一層の低金利、円安を主張し、更に国内経済、特に所轄産業界の短期的「収益動向と雇用問題」にしか関心の無い官僚組織が後押しした結果生じた経済政策が生んだ「長期異常事態」、それが「円安現象」であった。

今回の世界的株価暴落と一斉に動き始めた円高傾向に対して、又政府、日銀の介入を求める動きが今後一層生まれるであろう。しかし、しばらくは日本政府、日銀は介入すべきではない。日銀は米国連銀と既に共同歩調を取り、潤沢な資金供給を始めているが、実に愚かな行為である。一つの経済的悲劇を回避しようとして、過剰流動性を生む具は絶対に避けるべきである。ましてその悲劇の根本原因が日本にはなく、日本経済にもたらす効果が期待できず、副作用だけが予見される愚作は取るべきではない。

米国のサブプライム問題を元凶として、ヨーロッパ、アジア市場にも波及している株式市場の混乱は、間違いなく為替市場の調整をもたらす。円高が進むが日本は静観を決め込み、慎重に対処すべきである。さもなければ、1980年代の円高防止策が、過剰流動性を招き、その反動の急激な引き締め策が1990年代の日本経済の停滞を生んだと同じ事態が、より小規模であるが生まれることになる。

日本は米国の株式市場を下支えする必要はなく、ましてや現在混乱を深めつつある韓国(17日現地時間午後4時終値1638.07 前日終値比-53.91)を初めとするアジア諸国の証券市場、為替防衛に協力する必要も現時点ではない。今日本が成すべき事は、十分な市場の調整が行われた後、冷静な経済原則に従い、積極果敢に経済的、政治的決断を行う準備を整える事である。もしこういった準備の整った果敢な経済的、政治的決断と行動を、日本国、日本国民、企業人、経済人が実行する事が出来れば、失われた10年は、飛躍の10年に変わるであろう。(文責 佐々木賢治)

注1:ブラックマンデーとは、1987年10月10月19日月曜日、ニューヨーク株式市場で発生した過去最大規模の暴落。ダウ30種平均の終値が前週末より508ドルも下がり、この時の下落率は22.6%と1929年の暗黒の木曜日の下落率12.8%を大幅に上回った。このニューヨーク株式市場の暴落は世界的株安を引き起こし、日経平均株価は3,836.48円安(14.90%)の21,910.08円と過去最大の暴落となった。この時の裏話であるが、当時大蔵省の証券局は世界的株安を防止するため証券大手4社(野村、大和、日興、山一)の株式部長を呼び株式の買い支えを指示。



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